会社員として働きながら、週末や早朝だけヨガを教える——「副業インストラクター」は珍しい働き方ではなくなりました。ただし、始める前に確認しておくべきことが2つあります。①勤務先の就業規則で副業が認められているか、②レッスンを引き受ける契約がどういう形になるかです。
この記事では、2026年8月時点の制度と公表データをもとに、副業としてヨガ・ピラティスを教えるための手順を整理します。数字はすべて出典と調査時点を明記しています。
まず確認する:勤務先で副業が認められているか
副業を一律に禁止する法律はありません。厚生労働省は平成30年1月にモデル就業規則を改定し、労働者の遵守事項から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除し、副業・兼業についての規定を新設しました(令和2年9月の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定に伴い記述を改訂/第14章第68条)。
ただしこれはあくまで国が示すモデルであり、実際に適用されるのは自社の就業規則です。届出制・許可制のいずれか、競業に当たらないか、本業に支障が出る勤務時間になっていないか——まずここを確認してください。無断で始めて後から問題になるのが、いちばん避けたい形です。

契約の形を確認する(2024年11月に制度が変わりました)
副業でレッスンを引き受ける形は、大きく「アルバイト・パートとして雇用される」か「業務委託で受注する」かに分かれます。後者については、2024年11月1日に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)。
この法律でいう「フリーランス」は「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」です。会社員が副業で個人としてスタジオから業務委託を受ける場合も、これに当たり得ます(★個別の該当性は契約内容によります)。発注する側には、次のような義務があります。
- 取引条件の明示:業務委託をしたら直ちに、書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で明示する。口頭での明示はNG。明示事項は9つ(給付の内容、報酬の額、支払期日、当事者の名称、業務委託をした日、役務の提供を受ける日・場所、検査完了日、現金以外で支払う場合の必要事項)
- 報酬支払期日:役務の提供を受けた日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、その期日までに支払う
- 7つの禁止行為(1か月以上の委託の場合):受領拒否/報酬の減額/返品/買いたたき/購入・利用強制/不当な経済上の利益の提供要請/不当な給付内容の変更・やり直し
- 中途解除の事前予告:6か月以上の委託を解除・不更新にする場合、少なくとも30日前までに書面等で予告する
副業は本業のスケジュールとの兼ね合いがあるぶん、「急にレッスンが無くなった」「単価を後から下げられた」が生活に効きます。契約前に単価・キャンセル時の扱い・支払期日を書面で確認しておいてください。トラブル時の無料相談窓口として「フリーランス・トラブル110番」(弁護士に無料で相談できる窓口・令和2年11月から運営)も用意されています。
副業でどのくらいの収入になるのか
時給制で始める場合の目安として、求人サイトの掲載データがあります。ヨガインストラクターのアルバイト・パート求人の平均時給は1,468円、時給中央値は1,342円(スタンバイ/集計期間2026年6月30日〜7月30日・2026年8月15日確認)。これは求人票に書かれた提示額の平均であり、実際に支払われた賃金ではない点にご注意ください。
前提として、2025年10月に発効した令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円(厚生労働省)。さらに令和8年度は2026年7月28日の中央最低賃金審議会の目安答申でランク別54〜56円の引き上げが示され、目安どおりに改定されれば全国加重平均は1,176円になります(2026年8月時点で各都道府県が審議中)。数年前によく見かけた「時給1,000円前後」という水準は、現在はどの都道府県でも成立しません。
業務委託の1レッスンあたりの単価は、スタジオの立地・クラス規模・指導者の経験で決まるため、公表された相場データがありません。本記事では出典のない単価は掲載しません。実際の条件は個々の募集要項で比較してください。年収全体の相場は働き方別の年収の記事にまとめています。
移動時間という見落としがちなコスト
本業の勤務時間が固定されている副業では、「レッスン1本のために往復2時間」が成立しにくいという制約があります。時給の数字だけで比べず、移動を含めた「拘束時間あたりの手取り」で考えてください。勤務先の近く、自宅の近く、オンライン——この3つのどこで開催できるかが、続けられるかどうかを分けます。

副業として始めやすい3つの形
①スタジオ・フィットネスクラブの時給制シフト
週1回から入れる募集もあり、収入が読みやすいのが利点です。集客は施設側が行うため、自分は指導に集中できます。一方で、シフトの時間帯は施設の都合で決まります。準備・片付け・会員対応の時間が労働時間に含まれる契約かどうかを、応募前に確認してください。
②レンタルスペースでの自主開催
料金と日程を自分で決められる代わりに、集客・予約管理・会計がすべて自分の仕事になります。会場費は先に出ていくため、「最低何人集まれば赤字にならないか」を最初に計算してから日程を出すのが実務上の鉄則です。集客の具体的な手順は集客方法の記事にまとめています。
③オンラインレッスン
移動時間がかからず、平日夜に自宅から開催できるため、本業と両立しやすい形です。必要な機材は多くありませんが、音と映りの品質はそのまま継続率に影響します。詳しくはオンラインレッスンに必要な機材の記事にまとめています。
ピラティスも副業の選択肢になるか
マシンピラティスのスタジオは増えています。矢野経済研究所の調査(調査期間2025年7月〜10月)によると、2025年8月時点の国内フィットネス施設数は13,876施設、うちヨガ型は1,877施設で、同社はヨガ型施設の増加要因としてマシンピラティス業態の拡大を挙げています。指導者の募集が増えている領域です。
ただし副業として考えるとき、入口のコストがヨガとは大きく違います。
| ヨガ(RYT 200) | ピラティス(NPCP 包括的認定) | |
|---|---|---|
| 養成の時間数 | 認定校(RYS 200)での200時間 | 最低450時間 |
| 指導実績の要件 | なし | —(受験資格は18歳以上) |
| 扱う内容 | — | マット+リフォーマー、トラピーズテーブル、ワンダチェア、ラダーバレル、スパインコレクター、マジックサークル |
働きながら450時間を確保するのは、時間的にも費用的にも簡単ではありません。副業から入るなら、まずマット系から始めて、続けられる見込みが立ってからマシン系を検討する——という順序が現実的です。なお、NPCPの受験要件は2027年1月1日に改定版が施行され、レパートリー・特別対象者・見学/指導実習の一部に「対面またはライブ配信」での実施が求められます。オンライン中心の課程を検討している方は、その課程がこの区分を満たしているか確認してください。
日本国内の養成講座は運営団体ごとに時間数・費用・カリキュラムが大きく異なり、統一された公的基準はありません。金額は団体差が大きいため、本記事では具体的な受講料を記載しません。
副業のメリットとデメリット
- メリット:本業の収入を保ったまま試せる。この職業は自営・フリーランスが52.9%(厚生労働省 job tag・複数回答)と独立型が主流ですが、いきなり全部を賭けずに、需要と自分の適性を確かめられます。
- メリット:指導の実績が積める。Yoga Alliance の E-RYT 200 は修了後1,000時間以上・2年以上の指導が要件です。副業であっても指導時間は積み上がります。
- デメリット:休みが減る。週末に集中しやすく、体を休める時間が削られます。この職業は「立ち作業」の重要度が4.3(job tag、5点満点)。体を痛めれば本業にも影響します。
- デメリット:事務作業が増える。所得の記録や契約書の管理は自分の仕事になります。
- デメリット:スケジュールの自由度が低い。本業の繁忙期にレッスンを休むと、受講者の継続率が落ちます。引き受ける本数は最初は控えめに設計してください。
最初にそろえる道具
副業は「持ち運ぶ」ことが前提になります。会場に置きっぱなしにできないぶん、重さと耐久性の両方が選定の基準になります。
- 持ち運び向けのトラベルマット(Manduka公式ストア):会場を移動する働き方で、荷物の重さを抑えたい方向けのラインナップです。
- PRO® / PROlite® シリーズ(Manduka公式ストア):厚みとクッション性があり、指導者が長く使うことを前提に設計されたシリーズです。
まとめ
- 始める前に確認するのは①自社の就業規則 ②契約の形の2つ。
- 厚生労働省はモデル就業規則から副業禁止の規定を削除済み(平成30年1月改定)。ただし適用されるのは自社の規則です。
- 業務委託で受けるなら2024年11月1日施行のフリーランス法が適用され得ます。取引条件の書面明示、支払期日60日以内、30日前の解除予告が発注側の義務です。
- アルバイト・パートの平均時給は1,468円(スタンバイ・2026年)。最低賃金は令和7年度で全国加重平均1,121円、令和8年度は目安どおりなら1,176円です。
- ピラティスは包括的トレーニングが最低450時間(NPCP基準)。副業から入るならマット系を先に検討するのが現実的です。
出典・参考
- 厚生労働省「副業・兼業」(モデル就業規則の改定・副業・兼業の促進に関するガイドライン)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html - 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」(フリーランス・事業者間取引適正化等法/2024年11月1日施行)
https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2024/ - 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「スポーツインストラクター」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/120 - スタンバイ「ヨガインストラクターの給料・年収」(集計期間 2026年6月30日〜7月30日)
https://jp.stanby.com/stats/occupation/ヨガインストラクター - 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度・全国加重平均1,121円)/「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申・全国加重平均1,176円)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74920.html - Yoga Alliance「Standards for Registered Yoga Teachers」(2025年5月公開版)
https://yogaalliance.org/wp-content/uploads/2025/05/Standards-for-RYT-Credentials_NB22my-.pdf - National Pilates Certification Program「Pilates Comprehensive Eligibility Requirements」(2026年8月15日確認)
https://nationalpilatescertificationprogram.org/NPCP/NPCP/Get_Certified/Requirements.aspx - 矢野経済研究所「2025年版 フィットネス施設市場の現状と展望」(調査期間 2025年7月〜10月)
https://www.yano.co.jp/market_reports/C67114100
※本記事の数値・制度は2026年8月15日時点で各出典を確認したものです。税務・契約の個別の判断は、税務署・税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

